松田修展「何も深刻じゃない」




キュレーター:Chim↑Pom
コラボレーション:古藤寛也、井手康郎、外道のスゝメ、麩澤孝

会期:10/3(土)-10/25(日) ※火曜休み 15:00-20:00
オープニングパーティー:10/3(土)18:00-21:00
入場料:投げ銭制
info.chimpom@gmail.com
tel:090-1842-9765(松田)

協力: 無人島プロダクション

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この度Garterでは松田修の個展を開催します。
松田は差別や貧困、人間の存在などをテーマに、下品さや安直な笑いをアカデミックに作品に落とし込む作風で知られています。それはこれまであまり語られてこなかった、松田のユニークな人生と、独特な人生観に強く裏打ちされたものです。

「地元では裸で歩いているおっさんがたくさんいて、その背中の刺青の仏を呆けた祖母が拝んでいた」――、そう回想する松田の生まれ育った当時の兵庫県尼崎市は、日本有数の治安の悪さと貧困、そして笑いの文化が色濃く根付く、まるで古き良きヤンキー喜劇の舞台のような工業都市でした。クラスの8割がパンチパーマだったという環境で、「別にヤンキーという意識もなかった」まま、松田も周りと同調。分別のない楽しい少年時代の遊びとしてやんちゃを繰り返した結果、鑑別所に収容、その更生プログラムで訪れた岡山の大原美術館がアートとの出会いだったといいます。その後4年間の高校生活を経て上京。90年代後半の関西のノイズシーンやLAを舞台にした過激なアート、サブカルチャーの影響を受けて自腹で東京芸大に入学し、大学院を卒業したという異例のキャリアの持ち主です。鑑別所から芸大ーー「国立から国立」と友人の間で揶揄されるその流れの中で、松田作品の低俗さと暴力性、アカデミズムは養われていきました。

本展で松田が掲げる「何も深刻じゃない」というタイトルは、客観的には深刻な事件の数々を経験してきた自身や、あっけらかんと苦境を生き抜いていた当時の尼崎の人々の人生のモットーです。働かずに蒸発を繰り返しながら家族の収入にたかり続け、しかしそれを笑いに変えることだけには長けていたダメ親父、通学路に立ち子どもたちとフランクにスキンシップを交わしていた売春婦、童貞を捧げたロシア人娼婦……松田は関西人らしくそれらを常に笑いのネタとして回想してきました。しかしその特殊な環境は、過酷な状況を次世代に再生産する連鎖のトリガーでもあったようで、継母の自殺、弟(三男)の薬物中毒……など松田を巡る「深刻な現実」は、今 もしつこく進行中です。一体どこまで続くのか、「何も深刻じゃない」と自らの人生を題せるその性分に、友人としては甚だ呆れながらも敬意を表さずにはいられません。が、とにかくそんな松田にとって「現実」は、直視するものではなく、ネタ=素材として捉えるべきもので、「笑うしかない」ものだと考えられています。「現実そのものはキツすぎて笑えない。向き合いすぎると死ぬしかないじゃん。」という松田の言葉は、図らずも近年の日本社会に蔓延する貧困や無縁社会、自殺の増加などに晒される私たち全てにも鋭く向けられています。

【ネオダダオルガナイザーズやポールマッカーシーといった、「反知性的態度で問題に挑む知性の出し方に影響された」という松田は、しかし彼らよりもさらに稚拙に見える、スベリ芸や一発芸といったギャグを芸風とします。反芸術や計算された笑いよりも、下ネタや動物的笑いを頑固に選ぶことについて松田は、「自分の笑いにはアカデミズムのかけらもない。結果的に人が笑うかどうかより、笑わせようとする自分の態度の方が大事なんだ。けど、幼稚なギャグを繰り返してくるやつって、たいがい嫌がられるし、ウザがられるよね。(笑)」と述べています。自分は馬鹿にされたり差別される対象であり続けたい、そんな松田の信念が、しょうもない作品を産み続けているのかもしれません。
その反面、芸大で、「敵を知るように」アカデミズムやミニマリズムにも興味を持ったという松田は、その知性的態度や客観性を、「対象にリアリティを持たず、一歩引いた目線で作品を作るため」の命綱のようなもの、と独特な解釈で捉えています。つまり、深刻な現実に向き合いすぎずに笑える立場に身を引いて置く、まさに「狂わないための防衛本能」こそがアカデミズムだと考えているのです。

「何も深刻じゃない」。現代社会を生き抜く楽観的な生存本能をテーマにした本展の11作品は、下らなくも差別や宗教、障害といった深刻な事例を多く含んでいます。ここでは3作を紹介しますが、みなさまには是非とも展覧会全体を御高覧いただきたいと思います。そして波乱万丈の人生から逃れられないひとりの男の断末魔のような笑いを、現在の社会と照らし合わせながら、どうぞご嘲笑いただけますよう、よろしくお願いします。


Chim↑Pom





「拝啓、宇宙人様」
ボイジャー探査機に搭載された、地球の生命や文化の存在を地球外生命体に伝えるための、ゴールデンレコードへの追加案。モーツァルトの音楽やダ・ヴィンチの人体図などのオリジナルデータに加え、「とはいえ人間は馬鹿な生き物」という真実を伝えるために、ダ・ヴィンチの人体図をモチーフにした下ネタビデオを追加するよう提案。展示はビデオとディスクの写真を加工したもの。





「普通の写真」
ヘルパーのバイトで出会った、頚椎損傷者の鉄道オタク・麩澤さんとのコラボレーション。首から下が動かない麩澤さんと日本中を旅しながら、指示通りに撮影してきた鉄道写真シリーズ。麩澤さんが目指すのは、撮り鉄らしくアマチュア鉄道写真のクオリティだ。協力することで一人前になるのではなく、2人でようやくアマチュアにたどり着くことを追求した作品。





「幸せになる方法の方法」
美學校の松田クラス「外道のスゝメ」とのコラボレーション。学生時代、無神論者であったにも関わらず、断るのが面倒との理由で、勧誘された宗教全部に入った経験がベースになっている。「宗教はひとつを選ぶから肩身が狭くなるわけで、全部入ったら逆に客観視できた。」とのこと。善し悪しの判断を超越した先の幸せを模索することを目指し、色んな宗教関係者へのインタビュー、経典や像、グッズなどをコレクションしたインスタレーションを制作。

松田修展 関連イベント
『ロ〜ング・リビングメッセージ』

個展開催中の会場内で、松田修がパフォーマンス『リビングメッセージ』を行います。
作家自身初の、ロングタイムパフォーマンス。腹が減ろうが漏らそうが、ギャラリーオープンからクローズまで、ずっとリビングメッセージ!
パフォーマンス後、「外道ノスゝメ」古藤寛也とのアフタートークもあります。
皆様ぜひとも足をお運び、ご高覧ください。

「リビングメッセージ」
死者が残すダイイングメッセージから転じた、死んだ振りの人間による“生きていることポジティブに伝える”メッセージ。生と死のリアルとフィクションを織り交ぜることで、死を茶番化させるパフォーマンス。

会場:ガーターギャラリー@高円寺キタコレ
日時:10月18日(日)15時〜20時
パフォーマンス終了後、古藤寛也とアフタートーク
入場料:投げ銭制




  

松田修展 関連イベント『チョーウケる話』

現在高円寺のガーターギャラリー@キタコレビルにて、個展「何も深刻じゃない」を開催中の松田修と、キュレーションを行ったChim↑Pomの卯城竜太によるトークを開催します。
皆様、是非お越し下さい。

会場:ガーターギャラリー@キタコレビル
東京都杉並区高円寺北3-4-14
時間:10月11日(日)19:00〜
入場料:投げ銭制



Garter


GarterはChim↑PomとGarterが高円寺で2015年から運営しているアーティストランスペース。いつ取り壊されてもおかしくないボロいビルにて不定期で開催される、Chim↑Pomキュレーションによる展覧会。アナーキックなアーティストによるエクストリームな展示がメインだが、近所にクレイジーなクレーマーが多いこともありいつまで存続できるかは全くの謎。

アクセス

東京都杉並区高円寺北3-4-13 キタコレビル内


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